コラム

歴史に残る一作になる可能性秘め「いだてん」第一章終了

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歴史に残る一作になる可能性秘め「いだてん」第一章終了

大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」(NHK総合 日曜8時〜)はタイトルのごとくオリンピックと落語を並走させて描く意欲作。

■「いだてん」第一章

2019年1月からはじまり、3月31日で13回まで放送。ここまでが第一章という感じで、明治時代、主人公・金栗四三(中村勘九郎)が故郷熊本から東京に出てきて、マラソン走者として日本ではじめてのオリンピック(ストックホルム大会)に参加。 そのレースの一部始終と、同時代に東京は浅草に生まれ育った、後の古今亭志ん生(ビートたけし)こと美濃部孝蔵(森山未來)が落語に魅せられ、橘家円喬(松尾スズキ)に弟子入りし、はじめての高座にあがって『富久』を披露するまでが平行して描かれた。

ストックホルムでロケを行い、当時のオリンピックの会場でも撮影を行ったり、浅草の歓楽街は、茨城、ワープステーションにオープンセットを作って再現したり、スケールも大きいし、情報量も細かい。

さて、四三と孝蔵の姿を並行して描くというと、ふたりがダブル主役のようにも思えるが、それは違う。四三と並ぶもうひとりの主人公は、昭和になって東京オリンピックを承知する田畑政治(阿部サダヲ)だ。第三の主人公は孝蔵(志ん生)と言って過言ではないと思うが、それはさておき。

■物語ならではのイマジネーション

ほんとうに並行して描かれのは明治と昭和のふたつの時代。オリンピックに命を賭けた人たちの姿だ。物理的に難しいふたつの時代をつなぐ部分は、明治から昭和まで生き抜いた志ん生が落語「東京オリムピック噺」として語り継ぐ趣向。

そう、人間には寿命があるが、落語や書物は永遠である。実際、志ん生が「東京オリムピック噺」を創作したわけではないが、ドラマならではのオリジナル落語として、明治と昭和のオリンピックにまつわる話を描くという、ドキュメンタリーとはひと味もふた味も違う、物語ならではのイマジネーションにあふれている。

■くせになる複雑に入り組んだ構造

この複雑に入り組んだ構造がくせになる。こうして、いろいろな時代や場所を描くことで、各々の時代に権力者から庶民までじつにたくさんの人達が泣いたり笑ったり、彩を成して生きてきたのだということがわかる。オリンピックに出た選手、オリンピックを招致したえらい人だけでなく、彼らを支えた人、応援した人、たくさんの人がこの13回で出てきた。

例えば、嘉納治五郎(役所広司)。柔道のカリスマで、オリンピック参加を目指して手を尽くす。

四三を見出したのもこの人。ストックホルムオリンピックに日本の監督として参加した大森兵蔵(竹野内豊)は日本にスポーツを浸透させようと努め、書物を残す。その妻・安仁子(シャーロット・ケイト・フォックス)は夫とともに外国から日本へ渡り、献身的に尽くす。

四三とふたり、オリンピックに選手として参加した三島弥彦(生田斗真)は名門三島家の次男で何不自由なく生きてきて、スポーツでも負け知らずであったが、ついにオリンピックで負けを味合う。

その三島の家族や女中、天狗倶楽部というスポーツ愛好会のバンカラな仲間たち、浅草の人力車夫の清さん(峯田和伸)や遊女・小梅(橋本愛)、熊本から四三を応援し続ける兄・実次(中村獅童)やスヤ(綾瀬はるか)など、出てくる人、出てくる人が個性的で魅力的だ。全員書くとそれだけで文字が埋まってしまうので、泣く泣く割愛する。

■とりわけ印象的なのは四三と弥彦

この13回のなかで、とりわけ印象的だったのは、四三と弥彦である。ふたりは日本初のオリンピック選手として大きな期待を背負って日本から8000キロも離れた白夜の国ストックホルムにやって来た。夜でも明るい白夜をはじめ、慣れない環境下、治五郎は一緒に来ることができず、大森は体調が悪く、頼れる人がいないなか、プレッシャーとストレスで参っていくふたりが、互いに励まし合いながらなんとか闘いに赴く姿が繊細に描かれていた。

オリンピック・イコール・ヒーローというふうに描くのではなく、こんなにも身も心もすり減らしながらも、自力でおそれを乗り越えていく姿を見守る作り手の視点がいい。

三島は、100メートル予選で負けたが自己最高記録を出した。それから、棄権した人が多く、ふたりしか出場しなかった400メートル予選を全力で走り、2位になる。負けたとはいえふたりしか出場していないため、そのまま準決勝に出ることは可能。だが潔く棄権する。彼は自分のすべてを出し切ったのだ。負け知らずだから負けてみたいとうそぶいていた以前の彼と比べて、世界との圧倒的な差を痛感した後の顔はとても晴れやかだった。

一方、四三は、30度もの気温にさらされ熱射病になり、Y字路で道を間違い、ゴールできずに終わる。正しい道を進んだポルトガルのラザロ(エドワード・ブレタ)は無理がたたって亡くなってしまう。同じ道を行っていたら自分も……と四三は思う。四三は紛れ込んだ地元の人たちに助けられ、彼はストックホルムで「ミッシング・ジャパニーズ」という名で伝説になる。運命とはほんとうに不思議なものだ。ものごとの結果はほんの少しの道の違いでしかない。

■じっくり見て味わい考えるドラマ

ラザロとは足袋を通して言葉がわからないにもかかわらずコミュニケーションをとった仲で、だからこそよけいにその死が胸に刺さった。共に戦った仲間たちが、ラザロのために小さな木の墓をつくり、悼む。「いだてん」には、志半ばにして敗れた者たち、退場していく者たちへの敬意と祈りがある。ともすれば忘れ去られてしまいそうな人々にも家族や、友や、夢や希望、生き生きした人生があることを描く「いだてん」。

するっと消費することができない、じっくり見て味わい考えるドラマだ。後々になっても、忘れられない、何度も見返したくなるドラマになると思う。まだ四分の三くらい残っているとはいえ、それこそ歴史に残る一作になる可能性を秘めている。

【データ】
大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』
NHK 総合 日曜よる8時〜
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
演出:井上 剛、西村武五郎、一木正恵、大根仁
制作統括:訓覇 圭、屋敷陽太郎、清水拓哉
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ、綾瀬はるか、生田斗真、森山未來、役所広司
ほか

文=木俣冬/Avanti Press

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