コラム

急展開の「大恋愛〜僕を忘れる君と」が“大”恋愛である理由

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急展開の「大恋愛〜僕を忘れる君と」が“大”恋愛である理由

「大恋愛〜僕を忘れる君と」TBS系 金曜よる10時〜

「大恋愛〜僕を忘れる君と」(TBS系 金曜よる10時〜)が熱い。

先日、美容室に行った時、おばちゃんの私と二十代のスタッフの女性とも男性ともこのドラマについて盛り上がった。他のドラマはそれぞれ好みがあって観たり観なかったりしているなかで「大恋愛」だけは三人とも熱心に観ていたのだ。

たまたまの例に過ぎないとはいえ、年齢、性別、職業の差がある者たちでわいわい語れたのはなぜだろう。若年性アルツハイマーにかかり、仕事も結婚生活も思うようにいかなくなっていく運命を背負った主人公・尚(戸田恵梨香)の物語で、観ている自分だっていつこの病気になるかもしれないと思うとヘヴィーだ。にもかかわらず、エンタテインメントとして観ることができるようになっている。

■病気と恋愛……ドラマの求心力とは?

11月16日放送の第6話に、尚の夫で小説家の真司(ムロツヨシ)が「困難な時代や苦しみは描きやすいけど、幸せは描きにくいんだ」と言う台詞があった。このドラマはその「幸せ」を書いている。

最初に断っておくが、病気を軽視して娯楽として消費している印象はまったくない。そう思われないようにすることが制作者サイドの課題でもあっただろう。

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「大恋愛〜僕を忘れる君と」TBS系 金曜よる10時〜

ちょうどドラマについて美容室でおしゃべりした日は、第2部、第6話の放送直後。第5話までは、主人公の尚は優秀な医師として働き、親も開業医で、貯金は6000万もあるセレブ。彼女は婚約者がいるにもかかわらず、家賃6万円のアパートに住み、引越しのアルバイトで生計を立てる男・真司(ムロツヨシ)と出会いたちまち恋に落ちる。だが、その時、彼女は若年性アルツハイマーの初期段階・軽度認知障害の症状が出ていた。大好きな黒酢ドリンクをいくつも注文してしまったり、患者の名前を忘れてしまったり……。仕事ファーストで恋愛に対するプライオリティの低かった尚が、婚約者がいるにもかかわらず突然恋愛に夢中になってしまうことも病気の影響ではと解釈できないこともなく、主人公の行動の熱量とその“なぜ?”がまずドラマの求心力になった。

■“優しくて面白い” キャスティングの魅力

設定がうまくできている。真司は元々、尚が最も好きな小説を書いた作家で、だからふたりのウマが合うのは必然。真司は真司で、一作だけの一発屋として、いまは引越し屋のバイトに甘んじていたところ、尚に出会い、もう一度小説を書きはじめ、ベストセラー作家としてみごとに再起を果たす。

尚を演じる戸田恵梨香の渾身の演技も注目に値するが、真司を演じるムロツヨシのキャスティングもドラマの魅力のひとつだ。“喜劇俳優”と名乗っているだけあってコメディリリーフ的な役を主にやってきたムロが主人公の相手役という大抜擢。彼は尚の大きな悲しみを受け止め、救いになる。“優しくて面白い”が尚の真司に引かれる部分で、ムロがキャスティングされた所以である。だが、男としてそれだけではプライドが許さず、紆余曲折ある。結果的に尚とのことを小説に書いて作家として大成することで回り回って尚を受け止める自信を持つ。こうして、ふたりはついに幸せな結婚式を行う。

■話題のキラースマイル! どうなる? ふたりの「大恋愛」

……というところまでが第1部。第2部からは、尚と真司の結婚生活がはじまり、尚の病気も進行していく。真司の尚の愛は変わらない。だがそこで驚くべき展開が待っていた。

もうひとりの患者である。尚は病院で自分と同じアルツハイマー患者の公平(小池徹平)と出会う。彼の妻はその病気を知って去っていた。

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「大恋愛〜僕を忘れる君と」TBS系 金曜よる10時〜

保育士をやっている公平は病院に通う子どもにも優しい。その笑顔を見た真司は「キラースマイルだね」と言う(尚は真司の笑顔を「エンジェルスマイル」だと言う)。その「キラー」がほんとうに怖いものだったことが後でわかる。どういうわけか公平は尚に接近してくるのだ。ラスト・シーンでは尚にキスまで……。美容室で盛り上がったのも、この小池徹平のキャラが怖すぎるということ。SNSも小池徹平の話題で持ちきりだった。

小池徹平は舞台「デスノート THE MUSICAL」(2015年)でノートに名前を書いて犯罪者を裁いていく悪魔的なキラではなく、彼を怜悧な頭脳で追い詰めるライバルLを演じたことがあるが、「大恋愛」ではキラかよと思わせる怖さ。公平の常識を逸した行為は、病気がそうさせているのか、はたまた妻に去られた彼が、仲睦まじい尚と真司を妬んだ上での所業か……。“難病恋愛もの”は過去にも何作も作られてきたが、「大恋愛」ではそこにミステリー要素が入ってくるところが新しい。

■作品に感じる熱さ

前述したが、ミステリー的な様相を呈しているからといって、病気を軽視して娯楽に消費している印象はまったくない。むしろ、病気について掘り下げているとも考えられる。病気になった時、その人はそれまでとがらりと変わってしまうのか、変わってしまったら本人や取り巻く人達はどうなるのか……脚本家・大石静は角度を変えて見つめているように思う。

記憶を失う人物を描いた物語も過去に何作もあって、忘れても忘れてもその日その時の体験を大切に生きることが尊く描かれる物語などは感動を生んで来た。「大恋愛」はそれをさらにアップデートした快作である。ふたりの恋愛は病気に阻まれることなく強固であり、だからこその「“大”恋愛」なのであろう。

余談ではあるが、真司が尚をモデルに書いた小説「脳みそとアップルパイ」。このタイトルも、美味しそうな食べ物と脳みそが並んでシュールな雰囲気が漂う。なんだか少しグロテスクな印象もあって、これは映画にもなって大ヒットした小説「君の膵臓を食べたい」に近いニュアンスを感じる。

「君の膵臓を食べたい」も難病にかかった少女と彼女を見守る少年のラブストーリーながら、途中で予想を大きく覆す流れが待っている。難病にかかった当事者ととりまく人のわかりきった結末に向かっていく「困難な時代や苦しみ」の物語ではない、それ以外の物語があることを探求することこそ創作であり、「大恋愛」に感じる熱さはそこにある。

文=木俣冬/Avanti Press

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