コラム

伊原剛志『ヤッさん』 第2の“寅さん”“ハマちゃん”にはなれず

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テレビ東京系列で金曜20時から放送の『ヤッさん 築地発!美味しい事件簿』。
伊原剛志演じるヤッさんは、ホームレスでありながらも、プロから一目置かれれる“食の天才”というユニークな設定。芯が強くも心優しいアウトローが主役で、男はつらいよ(寅さん)や釣りバカ日誌(ハマちゃん)のようなドラマを目指したのであろうが、視聴率は思うように伸びず、26日の2時間SPをもって最終回を迎えた。
これまでの視聴率は、初回が4.7%。2話で2.7%と急落し、3話3.4%・4話2.6%・5話2.9%と低迷した。テレ東の金曜8時ドラマでは、『保育探偵25時〜花咲慎一郎は眠れない!!〜』『僕らプレイボーイズ熟年探偵社』と並ぶ厳しい数字となった。

視聴率では苦戦したが、テーマ自体はおもしろかったのではないかと思う。
26日の最終回は、物語の舞台である築地の仲間たちがイベント詐欺にかかるが、皆で協力し、騙されたお金を取り戻すというお話。お決まりのパターンで、視聴者の予想を裏切るような展開はなかったものの、家族みんなで安心して見られる内容だったように思う。

取り扱うテーマも、家族みんなで考えてもらいたい内容だった。
詐欺の主犯格である近藤は、安く仕入れた食材の産地を偽って販売する、いわゆる食品偽装を行っていた。彼は、「味のわからない連中には何を食べさせても一緒」「産地を偽装することで、むしろ美味しいと思い込ませてあげている」と、いかにも悪人らしいセリフ回しを行っていたが、悪人ではない読者の皆様の中にも、似たような考えを持つ方はいるのではないだろうか。

筆者の所属する日本味覚協会では、自分の味覚が良いか、悪いかを簡易的にチェックできる「味覚診断」を行っている。お客様には、「味覚を良くしたい」と真剣に考えていただける方もいるが、中には、「味覚なんて悪くたっていいでしょ。なんでも美味しいって感じられるんだから」と言う方もいる。
もちろん、だからといって産地を偽装してもよいとまで考える方はいないだろうが、味覚が悪くても構わない、と考える方は、産地を偽装されていても気付くことはできないだろう。もし世の中が、味の違いに気付かない人だらけになってしまえば、食品偽装の問題は起こって然るべきなのである。

日本で食品偽装が社会問題化したのは2013年のこと。有名ホテルを中心に、ブラックタイガーを車エビ、冷凍保存した魚を鮮魚、などと表示していたことが相次いで発覚した。
中には、7年間もの長きにわたって偽装をしていたというホテルもある。そのくらい、繊細な味の違いには気付かないものなのだ。
騒動から3年が経過した現在、もしかしたら、今この瞬間にも、産地や食材を偽装したものを食べている方がいるかもしれない。問題を防ぐためには、このようなドラマを通じて、定期的に社会に警笛を鳴らすことも重要だと思う。

今回のドラマは不調だったが、テレビ東京には『孤独のグルメ』など、食に関わる好調ドラマシリーズもある。視聴者が「食」にまったく関心がないというわけではないだろう。低視聴率という結果に懲りることなく、是非また違った切り口で「食」のドラマに挑戦してもらいたい。


(一般社団法人日本味覚協会 代表 水野考貴)
著者ブログ:『味覚ステーション~世界一面白く食品・栄養・味覚を学べるサイト

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